その夢は、河原に佇む年老いた侍が出てきました。辺りは霧が立ち込めていましたが、彼の姿は、ハッキリ捉える事が出来ました。小石を拾っては、川に投げ入れながら、私に語りかけてきました。「アンタのお陰で、楽しい思いをさせて貰った。ワシは、アンタに憑いてたら、いつかは、あの男に会えると思っていたが、アイツは、アンタの前に現れ無かった。だから、アンタの元を離れ様と思ったのじゃが、離れる事は出来なかった。アンタの人を救済する姿に、ワシも心が救われた。今度は、ワシがアンタに、お礼をする番やぁ、、。」「ところで、貴方と、私はどこで会ったのですか?それと、その男とは、誰なんです?」「貴船やぁ、、。アンタが修行で来ていた時に、憑いたんじゃ、、。男は、牛若の小僧じゃ、、。」「そんな、子供に何かされたんですか、、。」「娘を奪われ、ワシの兵法も全部持ち去って、屋敷に火を放ったのじゃ、、。」と、侍の苦々しい顔を見た途端、夢から覚めました。こんなマンガ、、どっかで見たのかなぁ、、。あんまり歴史に強くないので、調べる気にもならず、、。ひょっとすると、これは吉夢で、手術が上手くいくのでは、、と、思いながら安心して当日を迎えました。手術は初めてなので、恐怖と言うより、興味津々でした。車椅子に乗り、看護師さんに誘導されながら進むと、鉄の扉が幾つもあり、まるで、軍事基地の中に入って行く様な感じでした。奥に進んで行くと、別の看護師さんが待ち受けており、この部屋が私の手術室の様です。入ると、クラシック音楽が流れていて、近代的な医療機器が待ち構えていました。少し上の方を見ると、ガラス張りの見学室の様なものがあり、テレビドラマさながらの光景でした。スタッフもたくさん居て、手際よく作業が進められ、ベッドに横たわり、マスクを付けられました。「白井さん、、麻酔を始めますので、気が付いた時には終わっていますから、大丈夫ですよ、、それでは、、、。」
「白井さん、、大丈夫ですかぁ、、終わりましたよ、、。朝の6時30分ですよ、、。」と、声をかけられ、はじめて丸1日経過している事に気付きました。目が覚めると、腹部の辺りに違和感を感じながら、手術が終わったと思った瞬間、、咳をしました。その時、とんでもない痛みが腹部を襲いました。「口からチューブを入れていたので、少しノドが荒れるかも知れませんが、辛い時には、言って下さい。少し痛み止めをしますので、、。」と、言われましたが、痛みによって、お腹にチカラが入らないせいか、動く事が出来ずにいました。痛み止め、もしくは、麻酔の影響なのか、手術室から部屋に戻る迄の記憶が、全く思い出されません。気づいた時には、部屋のベッドに横たわっていました。ですが、本当の苦しみは、この後に起こりました。腹部を手術した事もあり、仰向けに寝れない事と、咳やくしゃみ、会話が困難な事、起き上がる事、トイレに行って座る一連の動作が一苦労となりました。それから数日が経過し、痛みにも慣れ、徐々に動作も、ゆっくりですが、生活に支障のないところ迄、回復していきました。術後の経過も順調との事でしたが、仕事は当面、無理のない範囲でする様、主治医にクギをさされました。その上で、主治医にお願いして、予定日より5日早く退院させて頂きました。早速、和順庵で自らの病気平癒の加持祈祷を致しました。こうして生かされたという事は、私なりに為すべき事が残っているのだなぁ、、と、改めて思いました。正直なところ、、父母や弟も亡くなり、、自分には、守るべき者も居ないので、生きる事に対して、執着は御座いませんでした。ですが、仏様を前にした時、心の底から生きてて良かったと、目頭が熱くなりました。