「Tさん、その額は何ですか?」「これは、祖父の時代から菓子店に飾って有った額です。母が記念に持って来ました。」そこには、松樹千年翠(しょうじゅせんねんみどり)と書かれてありました。年月や季節に左右されず、美しい緑を保ち続ける松。うつろいやすい世の中の、うつろうもののみに目を奪われて、常住不変の真理を見失うようなことがあってはならないことの意味です。書体から書道家というより素人が書いた文字でしたが、味の有る書体に思えました。よく見ると、落款には寺院と〇〇という僧侶が書いた作品でした。「Tさん、この額を書かれた〇〇と言うご住職はご存知ですか?」「いゃあ、、意味も分からず幼い頃から有ったので、誰が書いたのか知りませんでしたが、先生が言われる〇〇住職は多分、菩提寺の先先代の住職だと思います。」額の裏面を見ると、為書が書かれているのに気付きました。「Tさん、ちょっと見て下さい、、。此処に書いてある昭和10年為、岳〇って誰ですか?」「えっ、タ〇〇ですか?それは、叔父さんです。今まで気付きませんでした。」その額は恐らく、叔父が誕生祝いに住職から頂いたものだと思いました。「Tさん、この額を仏間に持ってきて下さい。この額と供に、今から先祖供養します。」と言って、私はT家と叔父の供養を致しました。引き続き護符を祈願し、仏間横に置きました。その後、不動明の真言を唱えながら各部屋を廻り、部屋に立ち込めている負のオーラを浄めました。「Tさん、これで一通り終わりました。ですが、これで霊体験がは治るとは思いません。貴方の体質もありますので、、。念の為、お守りを作って来たので、気休めしか成らないかも知れませんが、お持ち下さい。」と言って、Tさん宅を後にしました。数日後、Tさんからお電話を頂きました。「先生、その節はお世話になりました。あれから、家で音が鳴る事も無くオバケも見なくなりました。有難うございました。」「それは良かったです。Tさん、正直なところ、どうして叔父様が貴方に寄り添ったか、、今だに分かっておりません。また、何かございましたら、いつでも連絡下さい。」「わかりました。先生、夢とかでも良いですか、、。実は、先生が帰られてから2日経った頃、不思議な夢を見ました。髪の長い女が川から顔だけ出していて、こちらを見てる夢なんです。叔父の事と関係有りますかね、、。」「その1回だけですか、、?」「3回程、夢に出てきました。」「分かりました。念の為、道場で祈念しておきます。」と言って、電話を切りました。その女は何者なのか、、。本当に叔父の死に関わっているのだろうか、、?。Tさん宅を訪れてから2ヶ月が経とうとしていた頃、久しぶりにTさんから電話がありました。「先生、ご無沙汰致しております。あれから、無事過ごしております。オバケも見なく成りましたし、夢も見なくなりました。有難う御座います。先生、お守り頂けませんか、、。妻が洗濯で汚してしまって、、。」「分かりました。では、そのお守りはコチラに送って下さい。到着次第、新しいのを送りますね。」と言って、電話を切りました。ところがその翌日、Tさんから再び電話がありました。「先生、すみませんが先にお守り送って下さい。追突事故されて、、今病院からなんです。」「大丈夫ですか、、。分かりました。直ぐに送ります。」私は、胸騒ぎがしました。Tさんの夢に出てきた髪の長い女が、事故と関係しているのだろうか、、。私は不安を抱えつつ、Tさんにお守りを送りました。