数日後、元飼い主のＡさんに、彼女の病状を説明し自宅迄来て頂きました。Ａさんはシングルマザーで、仕事を掛け持ちしながら幼い息子さんを育てていました。月に2回程度、彼女の様子を見に来たり、服やオヤツを持ってこられます。「先生、もし〇〇〇が危篤になったら、連絡頂けますか、、。先生には良くして頂いているのが、よく分かります。会う度に、毛ヅヤが良いので、カットや良いものを食べさせて頂いていると思うと、先生に預かって頂いて、本当に感謝しています。〇〇〇の顔を見る度に、彼女が幸せそうで安心しています。」「最近は、散歩途中に座り込む回数が増えてきました。餌も、手でやらないと食べなくて、、。でも、一生懸命に食べなくてはいけないとの思いが伝わってくるので、彼女を通じて命の大切さをつくづく感じています。」というと、Ａさんは涙を流しながら彼女を抱きしめました。それから数日後、彼女の容態はみるみる悪化していきました。その後は、散歩も出来なくなり、オムツの中で処理する様になりました。同じところを徘徊し、咳の回数も増えてきました。病院で先生に状況を説明すると「かなり悪い様ですね、、。認知も出ている様ですね。今、飲んで貰っている薬は、4種類ですが、更に2種類増やしますので、大変でしょうが様子をみて下さい。」といわれ、その日から服用させました。ある日の事、私は不思議な夢を見ました。彼女と散歩する夢でした。近くの坂を降ろうとした時、クビ輪が取れて走りだしたのです。危ないと思い、彼女を追いかけましたが、中々追い付けず、見失ったところで夢から覚めました。すると、耳元辺りで彼女がすやすやとイビキをかきながら寝ていました。「〇〇ちゃん、良かった、、。」と安堵致しました。彼女の容態が安定したのか、何もなく2ヶ月が過ぎました。先生から頂いた薬の効果もあって、以前程ではないですが、散歩にも出れる様になり、、ひょっとしたら奇跡が起きたのかもしれない。更に1ヶ月がすぎ、このまま何も起こらない事を願いながら、1日1日が過ぎていきました。ですが、病魔は、彼女の身体を確実に蝕んでいきました。仕事から帰ると、彼女がゼェーゼェーと喘息の様に苦しんでいました。すぐさま病院に行きましたが、先生は「今日辺り〇〇ちゃんは死ぬかもしれません、、。舌の色も紫色になってますから、、残念ですが、、。」と言われました。結局、病院で処置するのをやめ、自宅で看取る決断を致しました。病院で酸素吸入機を借りて、彼女に装着致しました。私はＡさんを自宅に呼びました。数時間後、Ａさんが来られましたが酸素吸入機を付けて横たわる彼女を見たＡさんは、強く抱きしめながら「ゴメンね、、ママを許して、、〇〇ちゃんママを許して、、。」と泣き崩れる姿を見て「Ａさん、〇〇ちゃんは幸せですよ。そして、貴女も私も幸せでした。こんな素晴らしい彼女と出会えたのも、貴女のお陰です。有難うございました。私は本当に〇〇ちゃんに会えて良かった、、生きてて良かった。」と、私の目からも涙がとめどなく流れ落ちました。それから間も無くして彼女は亡くなりました。彼女は白い布に包み、彼女の服や思い出の品、念珠・経本を箱に入れてやりました。Ａさんの車に乗せ、最後に彼女の顔に頬を寄せ「〇〇ちゃん、私のところに来てくれて、本当に有難う。君のお陰で幸せでした、、。」と頬にキスをしてお別れしました。すると、今にも起き上がって私の顔をペロペロしそうな位、彼女の体温は温かく感じました。「先生、本当に有難うございました。何とお礼を言って良いか、、。本当に有難うございました。」「Ａさん、これをお持ち下さい。香典です。それと、これは彼女への謝礼です。少ないですが、お納め下さい。」「先生、こんなに沢山頂けません。私の方こそお支払いしなければならないと思っていたのに、、。」「お礼は結構ですから、、もし可能なら、荼毘に伏した後、〇〇ちゃんのお骨を分骨して頂けませんか、、。彼女を供養してやりたいのです。」「はい、どうか〇〇〇を供養してやって下さい。」といわれ、何度も何度も頭をさげられ、、帰られました。家に入ると、彼女が居ない部屋は信じられない程静かで、悲しみに覆われていました。これが、ペットロスになられた方のお気持ちなんだと、、。でも、私は本当に素晴らしい経験と、出会いが有った事に改めて感謝の気持ちになりました。彼女は、私にとっての観音菩薩ではないか、、。そう思った瞬間、彼女の写真に向かって、合掌致しました。「〇〇ちゃん、安らかに眠って下さい。本当に有難う、、本当に、、。」
