入院して5日目、リハビリで一緒になったＢさん52歳女性が、院内休憩室でお茶を飲んでおられたので、お声がけしました。「今日は、良い天気ですね。今朝のリハビリはお休みされたのですか？」「今朝は、気分が悪くて、、。同じ階という事は、貴方も心臓ですか？」「いえ、私は腹部大動脈瘤でした。」「痛いでしょ。私は、心臓辺りだから、一月近く入院してます。」「失礼ですが、関西の方ですか？あまり訛りが無い気がして、、。」「私は、埼玉です。夫が早く亡くなり、一人息子を大学迄出して、関西の大学を卒業後、大手企業に就職したんですが、去年、、息子は事故で亡くなったんです。悲しみが癒えないまま、今度は、私が病気になり、、。」「どうして、コチラの病院に？」「生前、息子が、、母さん、一緒に住もうって言ってくれたので、京都に引越してきました。埼玉の家を売却し、主人の残してくれたお金で、息子に家を建てやろうと思った矢先でしたから、、。正直、生きていても仕方がないなぁ、、って考える事が有るんです。どうして、こんなに不幸が続くんですかね。前世で、私は、余程悪い事をして来たのかしら、、。」「ご親族は？」「両親は、亡くなって居ません。弟がいますが、両親とは疎遠でしたし、今はどうしてるのか、、。夫との親族とは、絶縁状態です。元々、二人の結婚は反対されてましたから、、。これって、天涯孤独と言うんですよね、、。だから、悲しむ人は、誰も居なくなっちゃいました。」「退院したらどうされるんですか、、？」「まだ、何も決めていません。埼玉の家の事もあるし、、。失礼ですが、、貴方、お坊さんですか？」「頭が丸坊主だからですか、、。」「いえ、良い声をされているので、何となくお坊さんかと、、。」「私は、天台宗の僧侶をしております。」「やっぱり、、。入院されてる割に、見なりも綺麗にされてるから、、。」「入院してからも、頭の毛を剃ってますし、なるだけ普段通りの生活を心がけています。人間は、後戻り出来ない生き物ですから、悲しむ事があっても、前に進むしか仕方がないから、、。それに、私は、僧侶になって、自分の役目を見つけた様な気がします。」「役目？」「そうです。人間には、大切な日が二つあって、一つは、自分が生まれた日、もう一つは、この世で自分の役目が分かった日です。「そうなんですね。私は、未だ見つけてない気がします。私にも見つかるかしら、、。」「何をすれば、人の役に立つのだろうと考えていたら、必ず見つかります。それまでは、一生懸命生きなければなりません。」「そうですよね。ココで死んだら、周りに迷惑掛けますもんね。」「そうですよ。私も両親、弟を亡くし天涯孤独になりましたが、守るべき存在がなくなった事で、気持ちが楽ぬなりました。もし、ココで死んだとしても、誰も悲しむ人がいないから、心配する事もないし、死んで仏の元に行けるなら、それはそれで、私の望むところです。」「貴方の話を聞いて、私も少し気持ちが楽になりました。ありがとうございます。」と、言われましたが、我が子を亡くした親の気持ちは、壮絶な苦しみだという事を、生前の母を見て記憶しています。いつの日か彼女が、自分の幸せを思う日が来る事を願うばかりです。
