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涼しい話③

兄弟子が置いていった地方新聞には、隣町で起こった事故の模様が記載されていました。

「〇〇市〇〇付近の〇〇自動車道上り線で、走行中の乗用車が側壁と中央分離帯へ衝突する事故が起きた。この際、助手席側から3歳の男児が車外に放出。これを助けにいった32歳の男(事故車の運転者)も後続車にはねられ、2人とも死亡した。その後の調べで、事故を起こしたクルマの後部座席から毛布に包まれた女性の他殺体を発見。この女性は死亡した男の妻である28歳の女性だということがその後の調べで判明している。夫婦間で金銭上のトラブルがあり、これが殺害の動機になったとみられている。事故が心中を目的としたものだったかどうかについてはわかっていない。」

と、記載されていました。3日前の夜中2時過ぎに起こった事件だった様です。一瞬、息を呑みましたが、あの幽霊がこの事件と関係しているのかは定かではないですが、、ただ、この修行は後2日続けなければなりません。また、家族揃って出てくるのだろうか。よく考えてみると、周りは田んぼに囲まれ、背後には、鬱蒼とした木々に覆われている寺に一人修行とは、、恐がり屋さんなら絶対無理と言われるところです。ひょっとすると、事件を起こした男は、この裏山に妻の死体を埋める為に向かっていたのだろうか、、その後で自分達も心中を図ろうとしていたのだろうか、、途中事故に巻き込まれた事で魂だけが辿りついたのだろうか、、。修行中にも関わらず、想像が次から次へと浮かんできました。ですが、期待とは裏腹にその日も、その翌日も、家族の幽霊は現れませんでした。修行最終日、最後の護摩行を終え、帰り支度していると師匠が来られました。「和順、どうでしたか、、護摩は上手く焚けましたか、、。」 「ハイ、修行に集中する事が出来ました。」 「そうでしたか、それは良かった。こちらに来る時、一台の車とすれ違いましたが、誰か訪ねて来ましたか?」 「いえ、誰もお越しになってません。師匠、その方はどんな人でしたか、、。」 「若い男性と子供だったよ、、。でも、知らない顔だったなぁ、、。道にでも迷ったのかなぁ。」と、言われました。ですが、こんなところに来るには、余程目的が無い限り来ないと思いました。恐らく師匠は、車に乗る親子連れの幽霊を見たのだと思いました。やはり、彼等親子の幽霊はここに来ていたんだ。多分、この裏山に奥さんの死体を埋めに来たんだ、、。そして、今から自分達の死に場所を探しに出かけたんだと、、。私は想像を膨らませながら道場を後にしたのでした。

和順庵
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