この話しは、私が30代の頃に経験した不思議なお話しです。当時、仕事が上手く行かず、ある美術関係の仕事に再就職したばかりの時でした。この会社は、床間に飾ってある古い掛け軸を修復する事業で、急激に業績を上げた会社でした。色々な経済誌にも取り上げてられ、その勢いは自社で修復工場を持ち、沢山の表具師(技術者)を雇うなど、正に飛ぶ鳥を落とす勢いが有りました。入社し、研修を終えた私は、奈良県エリアの担当補佐という立場で、この仕事につきました。その奈良を担当されていたのが、私より二つ上のM係長でした。「白井君、僕らは◯Aの職員さんと組合員宅に行って、古い掛け軸の有無を確認し、修復するに値する掛け軸か、、その見極めが大切だから、最初は僕のやり方を見て欲しい。」と、M係長に言われるがまま、組合員さんの家を一軒一軒訪ねて行きました。M係長は、会社でトップの成績を収めている事から、次々と修復依頼を取っていかれました。60代女性Zさんという組合員さんの家に訪問した時の事でした。職員の方が「ごめん下さい、私◯A〇〇支店の者ですが、掛け軸の修復は無いですか?」「どうも、〇Aさん、ご苦労様。こんな古いのが出てきたけど、こんなんでも修復出来るの?」するとM係長が「お世話になります。どれどれ、、。」と、掛け軸の紐を解きながら、「これは、相当古い掛け軸ですね。生地も相当傷んでますし、この掛け軸は江戸から明治初期にかけて作られたモノですね。」するとZさんが「よく分かりますね、、。ウチのお爺さんがコレは村の大切な掛け軸だからと言ってました。恐らくウチのお爺さんの子供の頃から有ったというから、その時代の掛け軸かもしれません。」すると、〇Aの職員さんが「でも、この掛け軸、星のマークやら、縦横に線が書いてて、、挙句の果ては鬼って、、。人のカタチをした絵も書かれていたり、何かのおまじないですかね、、。」「さぁ、、。お爺さんの部屋を片付けてたら出てきたもんだから、、。ホントは処分したいのだけどね。」すると、Mさんが、「ウチには、こういうのに詳しい者がおりますので、良いモノなら修復して、値打ちが無かったら処分するという事で、、。」「そうして下さると助かります。」と言って、その掛け軸を預かる事にしました。仕事が終わり、会社に帰る車中の中でM係長が「今日はどうだった?やって行けそう?」「はい、奥深いというか、もっと知識を持たないとダメだと思いました。」「それは良かった。今日は遅くなったから、会社に寄らず、直帰しようかぁ。」「分かりました。」と言って、近くの駅迄送って下さいました。次の日、会社に行くと部長から「白井君、ちょっと良いかなぁ、、。」「はい。」と言って応接室に呼ばれました。「昨日は、どうだった?やって行けそうかね、、。」「はい。係長も丁寧に指導して下さるので、助かります。」「それは、良かった。実は係長の奥さんから、係長が体調を崩したと電話が有って、、それで、残りの仕事を君にやって貰おうと思って。」「私にですか、、。係長、そんなに悪いのですか?」「原因は分からないそうだが、今朝方、救急車で病院に運ばれたそうだ。今日、悪いが彼のとって来た掛け軸を係長の家に行って、貰って来てくれないか、、。奥さんには伝えておくから。」「分かりました。」と言って、社用車で係長の家に行きました。到着すると、奥様が玄関先で「ご苦労様です。この度はご迷惑掛けます。コレなんですけど、、。」「係長、大丈夫ですか?」「意識はしっかりしてるのですが、念のため検査を受けているところです。この後、また主人の様子を見に行こうと思います。健康だけが取り柄だった人でしたので、びっくりしました。」「大変でしたね。家に帰られてから、何か変わった事が無かったんですか?」「いつもなら、仕事帰りは直ぐにお風呂に入るのですが、その日は珍しく掛け軸を取り出して、メモ書きしていました。それは、どの掛け軸ですか?」「アッ、ちょっと待ってください。」と、家の中に入られ、一枚の用紙を差し出されました。「コレなんですけど。」と見た時、Zさんの掛け軸を描き写したものでした。すると、係長の家の電話が鳴りました。「白井さん、会社からお電話ですよ。」と、それは部長からの電話でした。「お疲れ様、君、その足で、〇A奈良の〇〇支店に行ってくれないか?係長と一緒に行った家のZさんが、掛け軸の桐箱と紙の様なモノが出て来たので、渡したいそうだ。」「分かりました。」と言って、奈良県に向かったのです。この時まで、私達はコノ掛け軸の持つ恐ろしい歴史を知らずにいたのです。 つづく。
